研究内容
研究概要
照月研究室(バイオハイブリッドロボティクス研究室)では、人間も機械も扱うことの難しかった環境中の匂い情報を、自在に検出して制御し、利用可能な世界の実現に向けて研究開発を行います。昆虫は、その小さい体にも拘わらず、匂いを敏感に感じることによって危険の察知やエサのある場所に向かうことができます。一方で、私たち人間の嗅覚はとても限定されています。これを昆虫の優れた嗅覚システムを用いて拡張すれば、今まで知ることのできなかった世界(匂い空間)が理解できるようになります。ではどのようにすれば、昆虫の嗅覚を我々が使いやすいように用いることができるでしょうか。近年、生体材料(組織・細胞など)と人工的な部品を融合した、バイオハイブリッドデバイスやロボットの研究領域が急速に発展しています。これは、生物の機能を直接活用することで、既存の工学技術では対応できない課題へのブレークスルーにつながると期待されます。
本研究室では、このバイオハイブリッドを主要技術として、新しい匂いセンサ・嗅覚飛行ロボットの開発とその応用に関する研究、さらには生物理解の深化に向けた研究を展開します。
研究紹介動画
2022年度に、(公財)国際科学技術財団より日本国際賞平成記念研究助成をいただきました。この際「やさしい科学技術セミナー」を開催し、YouTubeに講義動画をアップしています。触角搭載ドローンを含む、一般の方向けの研究招待とデモを行っていますので、本研究室にご興味がある方はぜひご視聴ください。
2022年度に、(公財)国際科学技術財団より日本国際賞平成記念研究助成をいただきました。この際「やさしい科学技術セミナー」を開催し、YouTubeに講義動画をアップしています。触角搭載ドローンを含む、一般の方向けの研究招待とデモを行っていますので、本研究室にご興味がある方はぜひご視聴ください。
- 研究助成名:匂い空間の解読へ向けて~昆虫嗅覚を活用した革新的ロボット嗅覚の実現~
- セミナー名:昆虫機能の活用が拓く新しい未来〜匂いを感知し匂いを追う
嗅覚飛行ロボット(バイオハイブリッドドローン)の開発と匂い源探索
イヌの嗅覚が優れていることは皆さんよくご存じだと思います。しかし、昆虫もイヌと同程度の優れた嗅覚を持っています。例えばカイコガ(シルクを生み出す蚕です)のオスは,メスの性フェロモン(ボンビコール)を触角で検出すると、メスと交尾するために匂い源探索行動(直進→ジグザグ→回転)を開始します。このような、昆虫の優れた匂い検出能力と匂い源探索能力を工学的に応用すれば、基幹インフラの点検(ガス漏れ検知)や災害時の人命探査など幅広い応用が期待され、環境中の匂い情報の自在な利用につながります。昆虫の触角は頭部から切り取って電極に接続することで、匂いセンサ素子として機能します。これは触角電図(electroantennogram; EAG)と呼ばれる手法で、触角が匂いを検出した際に発生する電気信号(電位)を取得します。このEAG技術を応用した小型匂いセンサであるEAGセンサを開発しました。さらに、このEAGセンサを小型ドローンに搭載することで、カイコガ触角を生きたまま用いた嗅覚飛行ロボット(バイオハイブリッドドローン)の開発に成功しました。このドローンは、EAGセンサをカーボン製の筒(エンクロージャ)に挿入することで応答値に異方性を付与したことにより、匂いの濃度と飛来方向を認識することが可能となりました。その結果、ドローンは回転中に連続的に匂い(ボンビコール)濃度を判定して応答の最大値が出た方向に直進する、スパイラル・サージアルゴリズムによって匂い源に到達することに成功しました。匂いの濃度と飛来方向を考慮したバイオハイブリッドドローンによる匂い源探索は世界で初めての事例です。今後はセンサとドローンの更なる研究開発を継続し、性能向上と実環境への応用を目指します。
図 (a) カイコガ(Bombyx mori)のオスと開発したEAGセンサの写真。(b) カイコガ触角を搭載したバイオハイブリッドドローンの写真。(c) センサエンクロージャを設置したバイオハイブリッドドローンの写真とスパイラル・サージアルゴリズムによる匂い源探索の結果。
参考文献
[1] Terutsuki et al., Sens. Actuators B Chem. 339(2021) 129770.
[2] Terutsuki et al., J. Vis. Exp. 174 (2021) e62895.
[3]日経新聞プレスリリース